■ 意図的でない差別
雇用差別の告発に直面した日本企業が「当社としては差別的意図はなかった」と反論するケースがよく見られます。例えば、「黒人の従業員が1人もいないのは人種差別である」「管理職に女性が欠如しているのは性差別である」といったクレームに対して、「黒人(女性)を排除しようとしたのではなく、たまたま結果としてそうなっただけである」という反論です。
しかし、その議論がいかに真摯なものであるにせよ、中立的に見える人事政策が結果として不平等をもたらした場合には違法とされる可能性があります。タイトルセブンでは、意図的な差別と並んで意図的でない差別、つまり「結果として一定のグループ (法的に保護されるグループ; 第1回コラムを参照)に不利な影響を与える」雇用慣行(”disparate impact”; 差別的な効果)を禁じています。今回のコラムでは後者の差別理論に焦点を当てて説明します。
■ホンダが直面した問題
アメリカで話題を呼んだ日本企業のケースを元に、「差別的な効果」がどのようなものかを考えてみましょう。 これは、在米日本企業による差別問題を厳しく追及したラントス公聴会(詳細は第1回コラムを参照)で取り上げられたケースでもあります。1977年にホンダがアメリカに進出してオハイオ州に自動車工場を設立した際、工場から半径20マイル以内に居住する人に絞って従業員を採用しました。しかし、その限定地区のすぐ外側に黒人居住者が密集していたため、「ホンダの採用限定は黒人の排除につながる」とみた雇用機会均等委員会(EEOC)が1984年に人種差別を告発しました。和解成立に至るまで、ホンダと委員会の間では4年間に及ぶ議論が続く結果となりました。和解を契機として、ホンダは差別がなければ採用されていたと推定される370人を対象に多額のバックペイを支払い、更には新たな雇用政策を導入することとなりました。
この件に関してホンダの関係者は差別的意図はなかったと主張し、「半径20マイルと限定することによって、あえて失業率の高い工場周辺の地域から人を採用し、地元に貢献しようと試みた」と述べています。 しかし意図があるなしに関わらず、結果としての不平等が生じた場合には差別が認められることになります。「差別的な効果」の立証には、よく統計的証拠が用いられます。例えば、黒人が過半数を占める地域に工場を設立しながら、数多い従業員の大半がアジア人や白人で占められているといるといった場合には、そのアンバランスが差別のクレームにつながる可能性が高まります。
ホンダの差別問題が告発される以前に日本で編集された某ビジネス・ガイドには、アメリカ進出を狙う日本企業に対して次のような内容のアドバイスが記してあります。「ホンダは黒人を排除し、更には勤勉で知られるドイツ系アメリカ人の多い地域に立地するという賢明な選択をした。他の日本企業もホンダの例から学ぶべきである。」 このようなアドバイスは、明らかにアメリカの雇用機会平等法を無視したものであることを雇用者は留意するべきです。実際に、日本企業は黒人の雇用を避けるべく立地する傾向があるという分析をした専門家もいます。
(ちなみに、上記のケース以外でもホンダは差別のクレームに直面しており、2004年にも差別的な効果を訴えて黒人による集団訴訟が持ち上がった事実を、ここにつけ加えておきます)
■採用時の注意
更に例をあげると、日本の企業文化においては認められる慣行、例えば採用試験を行うことなども、表面的には能力重視で公正に見えるかもしれませんが、その内容によっては差別的な効果をもたらすものとして違法となります。「タイピストを雇うのでタイプのテストをする」といった具合にテストされる能力が職務遂行との直接の関連があれば別ですが、「一般教養試験」といった業務関連のない曖昧なテストを行うことにより、一定のグループが不利な立場に立たされるという結果になり得るからです。実際の判決を見てみると、入社試験が少数民族に不利な影響を与えたとして違法とされたケースが見受けられます。
アメリカでビジネスを行う以上、平等を理念として掲げるのみでは不充分であり、結果としての平等をもたらす雇用方針を取り入れ実行することが不可欠となります。


