宗教を理由とした差別 (1): 概要

宗教を理由とした雇用差別は在米日本企業にとって盲点になりやすいと言えるでしょう。人種や性別による差別が違法であることは知っていても、宗教に関してはつい見落としてしまう場合が多いのではないでしょうか。また人事担当者がアメリカ社会における信仰の意義や宗教的な慣習(安息日や服装に関する決まり、食物の制限など)を十分に把握していないということもあり得ます。今回から2回のコラムを通して、特に経営者の視点から職場における信仰ならびに宗教上慣習への対応の仕方を説明します。
アメリカ社会の多様性は人種や国籍、出身国にとどまらず、宗教においても反映されています。アメリカの法律において最も深い意義を持つとされる連邦憲法第1条では信仰の自由を保証しています。雇用の分野ではタイトルセブンが採用から解雇に至るまでの全過程において宗教による差別を禁じています。雇用機会均等委員会は、宗教を理由とした差別が10年間で85パーセントもの増加をみせ、特に2001年9月11日の同時テロ事件以降はその傾向が著しいと発表しました。金曜日の日没以降は働くのを拒否するオーソドックスのユダヤ教徒から、中絶を行うクリニックの警備にあたるのを拒むカソリックの警察官まで、さまざまな原告によって多岐に渡る訴訟が持ち込まれています。

タイトルセブンにおいては、キリスト教やイスラム教のように確立された宗教のみが対象になるのではありません。組織の大小に関わらず、真摯な信仰(sincerely held belief)であれば保護対象になります。 またタイトルセブンは信仰そのものに加えて宗教上の慣習をも保護しますが、その慣習は必ずしも「日曜日に教会の礼拝に出席する」といった一般的なものに限りません。例えば自宅でTV church (テレビで放映される礼拝番組)を見るといった行為をも含んでいます。

さらに注意すべき点は、いわゆる「無神論」の考え方も宗教と同等に扱われることです。例えば無神論者の従業員が、ある宗教を信仰する上司により「あなたも罪を悔い改めて、神を信じなさい」と執拗に勧められ、拒否すれば解雇になると脅かされたためにハラスメントを訴えたケースもあります。

人事担当者は採用面接で宗教に関連した質問をするべきではありません。「教会に行っていますか?」といった質問がタブーになるのはもちろんですが、そこまであからさまに宗教そのものについての質問をしなくても違法とされることはあります。例えば、離婚や再婚に関する質問をした場合、応募者の答えが人事担当者側の宗教的価値観に合わないために不採用という結果になれば、差別として訴えられる可能性があります(ちなみに、婚姻状態に関する質問は宗教と切り離しても禁じられています。「結婚していますか?」「子供はいますか?」といった質問はすべきではありません。面接で許されない質問に関しては後のコラムに譲ります)。

また最近はヨガや瞑想など、ニュー・エイジ的な要素を取り入れた社員教育を行う職場もありますが、そういったものへの参加が従業員の信仰に反する場合も予想されるため配慮が必要となります。差別のクレームを未然に防ぐという観点からみれば、そういった教育は最初から行わないのが賢明でしょうが、もし実行するのであれば、少なくとも全員参加を課すのは避けるべきです。

次回のコラムでは、宗教を理由とした差別をめぐる訴訟で焦点になりがちな “reasonable accommodation” という概念(類似の概念は宗教以外の雇用差別においても導入される場合があります)を軸として、職場における信仰の取り扱い方をさらに具体的に説明します。

 

 

コメントする

以下に詳細を記入するか、アイコンをクリックしてログインしてください。

WordPress.com ロゴ

WordPress.com アカウントを使ってコメントしています。 ログアウト / 変更 )

Twitter 画像

Twitter アカウントを使ってコメントしています。 ログアウト / 変更 )

Facebook の写真

Facebook アカウントを使ってコメントしています。 ログアウト / 変更 )

%s に接続中